村井忠夫のマンション管理ブログ

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【語り尽くされていないこと、見逃されていること31:大規模修繕工事】言葉は説明抜きで通用しそうだが、人によって理解が異なる怖さ

誰もがわかっているようでもイメージは人によってバラバラになるから大規模修繕工事は難しい

 先日、テレビ東京の『ガイアの夜明け』でマンションの大規模修繕工事のことが出てきて、いささか驚いた。

 何で今ごろ大規模修繕工事のことがこんなドキュメンタリー番組のテーマになるのだろうかと不思議に思ったからだ。

 大規模修繕工事というのは、どこの分譲マンションでも昔から使われてきた言葉である。

 言葉だけは説明抜きで通用する程度になじまれているが、いざ具体的に取り掛かろうとすると、途端に知らないことだらけであることに改めて気づく・・・。

 そんな言葉でもある。

 だから、マンション管理セミナーなどで大規模修繕工事を取り上げれば参加者が多かったし、大規模修繕工事を書いた本には必ずそれなりの反応があった。

 よく知りたい人がそれほど多いという意味で、大規模修繕工事は情報ニーズが強い課題だといっていい。多分、その情報ニーズの強さは今も変わっていないだろうと思う。

 そうではないか。マンションストック戸数が600万戸を超えて大規模修繕工事が否応なしの課題になるマンションは確実に増えているのだから。

 やはり、この言葉はとてもわかりにくい。説明もしにくい。なぜか。

 いくつも理由がある。それも、あまり気に留められないことの多い理由が・・・。 

 まず、第一に、この言葉が今なお公式に認知されていない点がある。法律や公式制度には、大規模修繕工事のことがどこにも出てこない。だから、管理規約や法律だけを頭に置いて考えると、大規模修繕工事なんて管理規約にまったく書いてないのに、こんなことを管理組合が取り組むのはルール違反ではないかといったトンチンカンな意見が出たりする。

 第二、辛うじて、そんな状態でも現実的な考え方で大規模修繕工事を取り上げる人がいても、大抵いつも法律に出てくる「共用部分の変更」という回りくどくてわかりにくい言葉を使いながら手続きの説明だけにとどまる傾向が強い点がある。言葉の説明だけで、誰もが一番知りたい現実的な進め方は知るすべがない。

 第三、これが最大の理由だが、具体的な意味での大規模修繕工事は個々のマンションごとの個別条件に対応した形で進められるという点がある。言葉は同じでも、大きなマンションと小さなマンションでは建物規模や特性に対応して進め方が全く違う。

 第四に大規模修繕工事は徹底して実務レベルの問題だという点がある。法律や制度は実務を離れた観念的な言葉だけで成り立っているから、法律知識だけで管理の現実を知らない人には歯が立たない。役人や大学教授、資格だけで実務経験のないマンション管理士が大規模修繕工事を敬遠するのはこのためだ。

 そして最後に第五の理由として、管理組合自身の当事者能力が大きく関わる点がある。大規模修繕工事はあくまでも管理組合という組織が主体となる。管理組合が組織レベルでの対応能力を発揮することが欠かせない。

大規模修繕工事周期の15年でマンションのすべてが物件ごとに変わる実情の重さ

 こうした厄介なことを解く鍵になりそうなことが一つある。

 それは、大規模修繕工事の周期となる年数だ。大規模修繕工事の実行に迫られる時期は竣工後何年ごろかという問題である。《何年ごろ》というあいまいな言い方になるのは、具体的な大規模修繕工事の必要性は物件ごとに異なるからだが、目安となる年数はある。その目安は、昔は10年だった。その後、この年数は長くなり12年から15年ぐらいになっているらしい。《らしい》というのは。調査がなくて確かめようがないからだ。

 そうした実情があるから、聞き知っている実例や自分自身が経験してきたことから言えば、最初の大規模修繕工事は竣工後10年過ぎぐらいだったが、2回目の大規模修繕工事はそれからまた15年ぐらいたった時ということになりそうだ。確かなことがわからないから推測の域を出ないが・・・。

 問題は、ここにいう10年とか15年という年数が経つ間に、マンションの建物と居住実態がどういうふうに変わるかという点だ。

 まず、建物は必ずどこかに劣化が生まれる。居住実態も相応に変化する。15年経っても何一つ変わらないことはあり得ない。

 大規模修繕工事の主役となる管理組合組織の実情も、居住者次第で変わる。大規模修繕工事が組織レベルの課題であることを考えると、この点は無視できない。建物の劣化に気づき、それをどうするかは、すべて管理組合だけが決めることになるからだ。

 そこで何が問題になるか。

 大規模修繕工事が避けて通れなくなる15年ぐらいの期間に居住実態がどう変貌するかが、まず大きな課題になる。15年たっても居住者が変わらないマンションもあるだろうが、その場合も居住者の高齢化は進む。多くの場合は居住者の入れ替わりがあるだろうから、居住者年齢の分散や生活実態の分散化が目立つようになる。昨今の実情を考えれば、賃借人や外国人も増えている可能性もある。

 こうしたことは、すべて管理組合の組織運営条件を難しくする。管理組合は構成メンバーの考え方次第で実情が決まるから、老若男女混然となれば意見の広がりも大きくなる。大規模修繕工事の必要性の認識にも差が生まれるはずだし、話し合う時の言葉も通じにくくなる。費用負担や今後の居住見込みの個人差も大きくなる。

 こうした実情の背景にマンションごとの物件差が大きく絡む。小規模マンションの間近に高層の大規模マンションが建つとか、古いマンションと新しいマンションが隣り合って並ぶといった状況はマンションごとの物件比較を迫られる状況を生み出すと言っていい。

 大規模修繕工事の必要に迫られる程度の築後年数がたったマンションでは、居住者の定住度に微妙な差が生まれがちな点も無視できない。

マンションストック戸数600万戸時代の大規模修繕工事イメージ再検証の必要は間違いない

 大規模修繕工事をちょっと考えただけでこれだけのことが浮かび上がってくる。

 いったい、どう考えたらいいか。正直にいって、どういう対応策があるのかわからない。

 しかし、間違いなく言えることが一つある。

 それは、今まで特に疑問も持たなかった大規模修繕工事という課題に対応する発想に再検証が必要な時期が来ているという点だ。

 かつて大規模修繕工事という言葉を使い始めたころ、マンションはどの物件も同じような規模で、似たような形で、違いは住戸のタイプぐらいだった。住む人も同じようなサラリーマンが中心の核家族で、まだみんな元気だった。

 そんな中で生まれた大規模修繕工事という言葉が、今もそれほど変わらないまま同じイメージで使われているのではないか。

 だから、これほど様々に違うマンションで老若弱男女混然となったマンションの管理組合が頼りにできる大規模修繕工事のイメージが見つからないのではないか。

 そんな気がしてならない。
 

| muraitadao | コラム | 06:22 | comments(0) | trackbacks(0) |









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