村井忠夫のマンション管理ブログ

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【語り尽くされていないこと、見逃されていること48:災害のイメージ】大災害は人の数だけイメージが違う。マンションではなおさらだ

同じ「東日本大震災」という言葉なのに《その時どこにいたか》で思い描くイメージはまるで違う

 東日本大震災のあの日は金曜日だったから、午後は翌日のマンション管理セミナーのための下調べをしていた。40年以上前に建てられた11階建てマンションの11階の自宅で。

 目の前のガラス戸の向こうの、まだそれほど暖かくない風景に目を向けたとき、いきなりドンという音といっしょに、肩を強引につかまれたような横揺れがきた。ガラス戸はみんな開いてしまい、クローゼットの扉もいっぺんにみんな開いた。リビングの向こうのキッチンでガタンガタンと何かが倒れる大きな音がした。

 思わず立ち上がったが、揺れが収まらなくて机から手が離せない。15分ぐらいはかかったような気がする。

 ・・・といったあの日のことを、今もまざまざと覚えている。人にも話した。

 ところが、相手によって反応がみんな違う。ぴんとくる人もいたが、《それが、どうした?》といった感じの人もいて様々だった。同じマンションの住人に聞いても、居住階によって揺れ方の感じは微妙に言い方が違っていたような気がする。

 大震災の翌週、超高層マンションに住んでいる知人に会ったので、さぞ揺れたでしょうねとひそかに期待して聞いたら、その日は朝から外出していたので自宅にいなくて揺れ方がよくわからなかったんですよと聞いて、ひそかに拍子抜けした。

 あれほどの大震災でも《その時どこにいたか》で感じ方はまるで違うことを改めて実感した。

 「東日本大震災」という言葉で一様に誰もが思い浮かべるのは黒々とした大津波が無情に襲いかかる海岸の光景だが、リアルな当事者感覚で感じ取る「東日本大震災」という点になると、実は《3月11日午後2時46分、自分がどこにいたか》でずいぶん違うことをまざまざと思い知った。

当事者感覚の重さが言葉の使い方を慎重にさせた。「読む」言葉も「語る」言葉も

 この実感は重かった。その重さは今も全く変わっていない。

 災害に関する言葉を読むときも聞くときも、同じ言葉でも人によってどれほどイメージが違うのかということがいつも気になるようになった。災害について語る人があの時どこにいたか、伝えられる情報はどこの誰に向けたものなのか、ことごとに使われる言葉が気になるようになった。

 そういう実感とともに、聞くたびにうんざりする言葉や間違っても使いたくない言葉がはっきりしてきた。東日本大震災以後あちこちで目にするようになった『絆』という言葉はその典型例だった。何でもかんでも『絆』『絆』で、CMや歌の名前にまで『絆』が出てきた。

 『絆』『絆』と、さもわかったようにいうが、どこの、どんな人たちの『絆』なのか。石巻市や飯舘村の人たちの『絆』なのか、それとも新宿や大手町の人たちの『絆』なのか・・・。

 あのころ突然できた政党に『新党きづな』という名があって、とうとう『絆』もここまできたかとうんざりしたが、あっという間にすぐ消え失せてしまって、むしろほっとしたことを覚えている。

 こうなると、自分が書いたり語ったりするときの言葉には当然ながら用心深くなる。一応の見極めをつけて使う言葉であっても、読み手や聞き手のイメージにマッチしていなかったらこちらの思いは確実に空転する。

 そんな独りよがりはしたくないから、書く言葉や語る言葉の選び方が慎重になった。

 《安心安全》という無造作なほど便利重宝な感じでいろんな人が使う言葉などは、絶対に使う気にならなかった。

マンションの安全、防災、交流、コミュニティ・・・。伝えたいことが本当に伝わっているのか

 東日本大震災のあと、「コミュニティ」とか「交流」、あるいは「コミュニケーション」といった言葉がマンション管理の分野でも目立つようになった。

 もともとマンションは本質的に多くの人が生活条件を共有する集合住宅だから、居住者同士の日常的な接触や交流はあるのが当たり前だった。

 しかし、それが実際にはそうならず、同じマンションに住んでいながら目も合わせず、いつも会うのにお互い名前も顔もわからない状態が、何かにつけてどこのマンションでも気がかりになっていた。

 マンションは名前もわからない行きずりの他人が壁の向こうにいるホテルのような状態になる一方だった。

 そんな気がかりが消えないのにマンションの大規模化が進み、超高層マンションが増えて、昔とは比べられないほど多数の人が同じ建物に住む実情とは逆にコミュニティや交流が希薄になる矛盾が、痛切な論点になってきた。

 その状態で東日本大震災が起きた。

 災害で語られた言葉が、マンションでも同じような感覚で語られるようになったのは当然の成り行きだったろう。

 しかし、今や600万戸を超えるマンションは建築時期の新旧、戸数規模の大小、階数の高低、立地の地域差など、物件ごとに実情は千差万別だ。

 同じ「コミュニティ」という言葉を使っても、50戸のマンションと500戸のマンションでは、その言葉が伝えようとしている実情がまるで違う。まして、名簿の作り方などという実践論になれば、もっと違う。

 そこを考えないまま語られると「コミュニティ」とか「交流」という言葉は現実感が薄くなる、ピンと来なくなる、むなしくなる、空々しくなる。

 「コミュニティ」や「交流」といった《人と人との触れ合いを示す言葉》は、どんなマンションを前提としているかによって具体的な考え方がまるで違う。その言葉で語られているのはどんなマンションの話なのかによってイメージはまるで違うのだから。《ウチのマンション》という言葉をつないだ感覚で「コミュニティ」や「交流」をやり取りするのでなければ実感がないのだから。

 《ウチのマンションの全体》がわかっていなければ「コミュニティ」や「交流」なんて言えないのではないか。
                               ☆
 「コミュニティ」を語るときは、まず相手にこう問いかけるといい。『あなたがお住いのマンションで名前と顔が一致する人は何人いますか?』

| muraitadao | コラム | 07:36 | comments(0) | trackbacks(0) |









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