村井忠夫のマンション管理ブログ

村井忠夫のマンション管理ブログ
【語り尽くされていないこと、見逃されていること60:過去不問】「記憶がない」と答える空々しさはマンションでは命取りになるかも・・

「たった1年前のことを覚えていないエリート役人がこんなに多い」という空々しさは・・・

 7月8日の朝日新聞朝刊1面の記事が目に留まった。見出しは、こうなっている。

『公文書廃棄指針、見直しへ/内閣府管理委 保存「1年未満」縮小』。

 地味な見出しだし、1面のほぼ中ほどとはいえたった3段しかない。もしかすると、このニュースは朝日新聞だけだったかもしれないような気がする。

 しかし、一見つまらない感じのこの記事の裏側に浮かんでくる光景が気になる。

 もうこの何か月も問題になり続けてきたことが、結局のところ「言ったか言わなかったか」のやりとりであり、それも肝心なことになると必ず「記憶がない」という定番中の定番の応答になり、最後に「公文書が見つからない」という言い分にすり替わってしまう様子ばかりをうんざりするほど繰り返し見せられてきたからだ。

 そんなはずはないだろう。かつて暗記力を磨きに磨きながら難しい競争をくぐり抜けて出世してきた頭脳明晰で有能な人たちがそんなに忘れっぽいはずはないじゃないか・・・。本当にそれほど忘れっぽかったら、今のようなエリートになれるはずがないじゃないか・・・。

 それもこれも、記憶喪失は「言った」事実を裏付けとなる公文書がないからの言い分だ。公文書があれば、たちまちにしてよみがえる記憶力。過去のことは、すべて公文書次第。《公文書がない→記憶がない》という公式は《公文書を残すかどうか》という判断の結果であり、その判断は《どんな公文書を残すか》、逆に言えば《どんな文書は残さない方がいいか》という判断も、手がかりになるルール次第となる。

 結局、すべて仕組みの問題だから《判断》という属人的な個人能力の問題にならないように制度のレベルでガードできるように、何とか対応しようという役人世界特有の回りくどさが浮かんでくることになる。

「記憶にない」のは「文書がない」から・・という過去を不問にする感覚はマンションでも他人事ではない?

 見え透いているなどとは言うまい。

 ただし、こういうやり取りが臆面もなく展開されるということは、今の世の中では「過去のことは文書があるかないかで、すべて決まってしまう」という不文律めいた感覚が、いつの間にか世の中全体に広がりつつあることを否応なしに考えさせられる。

 これは、もう間違いなくれっきとした官僚主義感覚の産物だが、《こういう場合には、こういうふうにやり取りすればいいんだ》という感覚や風潮の広がりは、マンションでも決して無視できないだろう。

 その結果、言い方次第、文書の有無次第で過去のことは不問になるというおかしな風潮が生まれることになる。

 世の中で起こることは、必ずマンションの中でも起こる。世の中で通じる言い方や言葉遣いは、必ずマンションの中でも再現する。

 多くのマンションで、その様子は管理組合の総会など一定のルールで意見の発言が許された機会にまざまざと実感されることが多いはずだ。

 こういう機会にだけ顔を出して、マンションの維持管理についての理解や関心の有無とは全く離れて、マスコミ情報の受け売りで聞き馴染んできた論理や言葉遣いの主張を並べ立てる。それに応答する方もまた、そういう感覚で発言する。

 やり取りの大部分は「いま目前に見えている問題」ばかりであることが普通だ。マンションでは、きょう見えている光景の背後に過去までさかのぼらないと問題の本質がわからないことばかりなのだが、そこがまるでダメなのだ。管理組合の役員は毎年変わるのが普通だし、発言する方も過去のことなどわからぬままの展開になる。

 かといって、過去のことを確かめる資料もこれというほどのものがない。管理規約や法律の条件に対応した議事録などが中心だから、《いったい、いつ、そんなことを、誰が決めたんだ》という肝心のことになると、もう誰にもわからない。

 管理組合の世界には、こんな形で積み重ねられた組織運営慣習が驚くほど多い。その大部分はいつから始まったのか確かめようがないのだ。

 まさに「記憶がない」状況そのものである。その状況は「文書がない」から確かめることもできない。まして、そうしたことを想定したルールもない。・・

 かくて、連日のニュースがもたらすもどかしさは、マンションでも他人事ならざる不安な現実感を呼び起こすことになる。

ストックの増加でマンションごとの過去の再点検が管理の命綱になるはずなのだが・・・

 ここまで考えれば、問題はもうはっきりする。過去の経過を記録する感覚も手段もないのだから、竣工以来の長い歳月の間に、それぞれのマンションごとにどんな課題が生まれ、どう取り組んできたかという物件固有の歴史が誰にもわからない状態が広がっている。

 マンションは長寿命の建造物だが、同じ経過年数が住む人間の方には建物の経年変化とはまるで異なる変化を生む。高齢化や空室住戸の発生は、その典型だ。こうした事態を生んだマンション固有の歴史を探らなければ対応の仕方も考えようがない。

 国交省のマンションストック戸数は633.5万戸。歴史の再点検による管理の充実が命綱となるマンションが増えていることは誰に目にも明らかだろう。

 霞が関の役人とは違って、マンションの方は、もう「記憶がない」などと言っていられない状態なのだ。

| muraitadao | コラム | 14:58 | comments(0) | trackbacks(0) |









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