村井忠夫のマンション管理ブログ

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【43年の実感で「マンションの管理」を考える 9】理事長解任訴訟が課題となるマンションで大規模修繕工事はできるんだろうか??

理事長解任の最高裁訴訟・・・。『あ、そう。それが、どうした?』と思う白けた気分は・・・

 12月18日、雑報に近い感じで流れた『最高裁「マンション管理組合理事会で理事長を解任できる」と判断』のニュース。

 この報道で思い出したのは、しばらく前、マンション管理セミナーで受けた質問でこのケースに似たものが多かったこと。いつもこう答えていたっけ。

 《管理規約にそんな条文がないとかあるとかいう議論よりも、そんな人を理事長に選んだのはほかでもない当の理事会自身だったことを思い出してください。そんなことを決めた理事会は、あなたのマンションの管理組合の人たちが選んだことも思い出してください。顔を合わせる人同士の管理組合で、面と向かって解任とか訴訟などということを口に出すようになれば、もう管理組合本来のことができなくなりますよ。まず、自分たちの管理組合の様子を再点検する方が先じゃありませんか?》と。

 正直に言うが、いったい管理規約の解釈を巡ってわざわざ最高裁が下したこの判断のどこに、どれほど現実的な意味があるのだろうか、ピンと来ない。

 このニュースでわかるのは、理事長を辞めさせる理屈と手続きを最高裁が判断したということだけだ。こんな訴訟沙汰が持ち上がる理屈以前の背景にある「選ばれた理事長と選んだ理事会」や「選ばれた理事会と選んだ管理組合」という現実的な関係については何も言っていない。あくまでも字で書かれたルールの言葉をどう解釈して当てはめるかというだけの話だ。

 言葉だけ、現実抜きだから、《あ、そう・・。それがどうした?》という何とも白けた気分にならざるを得ない。

同じマンションに住んでいる者同士が「訴えたり訴えられたりする」ようになったら、その管理組合では実質的な組織活動条件がもう成り立たなくなる

 管理組合は、法理念とは別の実感で言うと、同じマンションに住んで「あ、あの人、○○さんだな・・」と自然に反応する相互認識を前提にした組織でもある。

 だから、法律の「区分所有者の団体」という権利中心の考え方よりも「居住する区分所有者の団体」という生活感覚次元に即した言い方が、現実のマンションでははるかに通じやすい。管理組合は《同じ分譲マンションに住む者同士の団体》という側面があるからこそ、マンションの防災活動やコミュニティづくりにもリアルな意味で説明ができるのだ。

 そうした生活条件を共有しながら壁一枚隔てただけの至近距離で暮らす者同士の相互認識を前提にして、理事や理事長を決めるのが管理組合の現実である。

 だから、その理事会が自分たちの選んだ理事長の解任訴訟を起こす・・などということは、普通のマンション住まいの生活感覚では、とても考えられない話になる。いったん決めておきながら後で解任を求めるような人を理事長に選んだのなら、選んだ方も選ばれた方もお互いによく知らない状態で理事長を決めたとしか考えようがないではないか。

 《辞めろ》と言う方も言われる方も同じマンションに住んでいていつも顔を合わせる状態なのだから、玄関エントランスでばったり出会うことは始終あるだろうし、時には同じエレベーターに乗り合わせて短時間ながら密室で間近に向き合わざるを得なくなる気詰りなこともあるだろう。

 そんな光景を考えたら、とてもではないが、理事長解任訴訟などという事態は平均的な普通のマンションでは想像さえできそうもない。管理規約にそんなあり得ない事態を想定した条文などあるわけがないことは、誰でも気がつくだろう。

 お互い同士の信頼と相互認識が基本となるマンション維持管理の約束事に、そんな《普通でない》事態を想定した条文がある方がいいと考える人がいるなら、その人は分譲マンションにまだ住んだことがないのではないか。マンションに住んでいても、管理組合が自分の生活と大きくつながっていることに思い及ばないレベルの社会常識しかない人ではないだろうか。

 漠然とではあっても、こうしたことをお互い同士でそれなりにわかりあって住むのが分譲マンションだ。このマンションには《借りて住む》のではなく《持って住む》のだから、何か問題があれば管理組合という組織レベルで何とか手を打っていくのがマンション住まいで最低限の常識だ・・・。

 たったこれだけの理屈を承知していないとマンションに住みにくくなり、結局、最後は自分が困ることになる。面倒くさくて難しい法律は苦手でわからないし、面倒なことを自分から買って出るほど熱心さもないが、だからこそ、理事が選んでくれた理事長にはずっと役目を果たしてほしい・・・。

 あいまいといえば実にあいまいで無関心すれすれで気がかりはあるもののの、こんな状態が大半の管理組合の現実だろう。そう考えれば、わざわざこの状態を否定するような訴訟が話に出るようでは、そのマンションの住みよさなど、もう、とても実現できまい。何しろ維持管理を担うはずの管理組合がまともに動く見込みがなくなるのだから。

 そうなれば、このマンションはもう管理不在状態になってしまう。

 こうなると、もう大規模修繕工事どころではなくなる。年月の経過につれて間違いなく劣化が進んでも手を打てないままになるのだから、もはやその先は・・・。   
「大規模修繕工事」は単なる修繕工事ではない!管理組合の組織総力を問われる課題のとてつもない重さに気づかないマンションにはもう未来がないのでは

 もう30年以上前からマンションで使われてきた「大規模修繕工事」という言葉。マンションの管理組合なんて関心がないというレベルの人が多いマンションでも、この言葉は説明抜きで通用すると言えそうだ。

 それは、この言葉が単純な修繕工事を意味するやや軽い響きでやり取りされているからだ。何しろ「修繕」という字が入った言葉なのだから、重々しい法律論議とは違う。その証拠に、いまも「大規模修繕工事」という言葉は正式な制度論などでは出てこない。

 だが、実情は違う。ただの「修繕」ではないからだ。あまりよく知らない大きくて複雑なマンション全体が対象となる大事業なのだ。どこを、いくらの費用で、どのくらいの日数で、どこの工事会社に、どういう方法で発注するのか・・・。

 これまで経験したこともなかった課題が管理組合にとって軽くない感じで次々に出てくる。大半は組織集団を当事者となる課題ばかりだ。長く住んでいてもマンションの全体には無関心で自分の住戸玄関ドアの内側しか知らない人には理解できないことばかりになる。

 共用部分という抽象的な言葉がほんの少ししか書いていない管理規約では、多額の費用を使う修繕工事の対象個所の決め方にも面倒くさい議論が必要になる。

 間違いなく言えるのは、大規模修繕工事が、決して単なる「修繕工事」のレベルではなく管理組合の総力が試される必修課題になるという事実だ。

 この必修課題の対応の中心は理事長を中心とする理事会である。当然ながら、理事会が理事長解任の訴訟を起こすような場合にはとうてい不可能だ。

 だが、不可能でも大規模修繕工事の必要性自体は、どこのマンションでも変わらない。

 最高裁の判断を、どう考えたらいいだろうか。

| muraitadao | コラム | 09:18 | comments(0) | trackbacks(0) |









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