村井忠夫のマンション管理ブログ

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【43年の実感で「マンションの管理」を考える 12】広辞苑が「マンション」を50年間どう説明してきたか確かめてみると・・

「広辞苑」は第2版から「マンション」をこういうふうに説明してきた

 「広辞苑」改訂第7版が発行された機会に、この辞典が「マンション」という言葉をどう説明してきたかを確かめてみた。「マンション」も国語辞典の中では膨大な数の言葉の一つにすぎないから説明はごく短いが、かえって引用スペースが少なくてすむのでこういう場合は好都合である。

 広辞苑の初版は63年をさかのぼる1955年(昭和30年)だったが、この初版にはまだ「マンション」が出ていなかった。この言葉が広辞苑に登場するのは初版から10年以上あとの第2版からになる。その後、今度の第7版まで「マンション」をどう説明してきたかを確かめてみた。

[第2版]1969年(昭和44年)―(邸宅の意) ホテル風の高級アパートの称。
[第3版]1983年(昭和58年)―(邸宅の意) 中高層共同住宅の俗称。主に都市部に建てられる。
[第4版]1991年(平成3年)―(大邸宅の意) 多くは中高層の、集合住宅の俗な通称。
[第5版]1998年(平成10年)―(大邸宅の意) 中高層の集合住宅をいう。1960年代後半から急速に普及。
[第6版]2008年(平成20年)―(大邸宅の意)中高層の集合住宅。1960年代後半から急速に普及。 
[第7版]2018年(平成30年)―(大邸宅の意)中高層の集合住宅。1960年代後半から急速に普及。

 ほぼ1行だけのわずかな言葉しかない短さが、かえってその時代ごとにマンションがどう認識されてきたかを凝縮している。

 例えば、第2版の「ホテル風」「高級」「アパート」。イメージが限定されるこうした言葉によって、マンションがまだそれほど世の中に普及していなかったことをまざまざと思い出させる。

 それから10年余り後の第3版では「俗称」「都市部に限られる」という多少は広がりのある言葉が使われて、マンションがいくらか普及してきたことが読み取れる。実際、1970年(昭和45年)にマンションは公的住宅融資の対象にはなったが、適用地域はまだ3大都市圏に限られていたのだから。

 第4版はバブル崩壊期の発行だったが、この時から( )の中の「邸宅」が「大邸宅」になった。第3版の「俗称」もわざわざ「俗な通称」に言い換えられた。こうした表現の変化は「主に都市部に建てられる」という言葉が姿を消したことと相まって、バブル期に高額商品としてのマンションが全国規模で投資財化してきた時代相を想起させる。

 第5版では、第4版の「多くは中高層の、集合住宅」という中途半端でわかりにくい表現がストレートに「中高層の集合住宅」となって、すっきりした。さらに「1960年代後半から急速に普及」という表現が付け加えられてマンションのイメージが鮮明になった。1960年代後半とは、昭和40年代の前半である。この年代を頭において国交省の「分譲マンションストック戸数」グラフをみると、縦棒の長さが広辞苑第5版の表現をちゃんと裏付けていることがわかる。

「広辞苑」の「マンション」はこのあと第7版まで変わらないが、この20年間にもこれだけの変化があった・・・

 興味深いのは、「広辞苑」の「マンション」を説明する言い方が、このあと変わらなくなってきた点である。

 第2版から第5版まで「広辞苑」は改訂のたびに「マンション」の説明を微妙に変え続けてきた。しかし、第6版では「をいう」という言葉がなくなったのを除けば、第5版と実質的に変わっていない。

 だから、今度の第7版ではこの点がどうなったかをぜひ知りたかった。

 で、第7版が届くと「マンション」の説明を真っ先に確かめたのだが、この10年間見慣れてきた説明は全く変わっていなかった。

 「広辞苑」が第2版で初めて「マンション」を取り上げてからの30年間にわたって第5版まで改訂版発行の都度、この言葉の説明は毎回どこかが微妙に変わってきたが、第7版で同じ言葉の説明は10年過ぎた現在も変えないままとなる。

 一つの言葉の説明が「変わらない」ということは、その言葉の使われ方そのものに全く変化がないからなのか、その言葉を使って語ろうとする事実が全く変わらないからなのか、あるいは変わっていてもそれほどではなかったからなのか・・。

 よくわからない。

 実際にはこの20年間、マンションの世界にも激変が続いた。集合タイプの都市住宅であるマンションには社会情勢の変動がそのまま集中して反映される。世の中で起こることは、必ずマンションでも起こる。

 だから、マンションはそのまま社会の縮図の観を呈する世界になる。この実感は、むしろ年ごとに大きくなっていく。
                   ☆
 「広辞苑」が「マンション」をどう説明しているかを何かにつけて気にすることが多くなったのは、マンションの管理組合で大規模修繕工事や管理規約の改正などを大勢の人に説明してわかってもらう必要に迫られる機会が多くなってきたからだ。

 同じ一つの言葉でも聞く人によって、その意味のわかり方は人の数だけ異なる。物事を決める時にはこの「わかり方」の個人差を少しでも小さくしなければ賛成してもらいにくくなる。委任状頼みの総会で形だけの賛成ですませると、実行段階で難しいことが多くなる・・・。

 マンションで物事を決めるためには総会や理事会での賛成が欠かせないから、この「わかり方」はいつも最大のキーポイントになる。

 「わかり方」は「わからせ方」次第で決まる。となれば、「わからせ方」の工夫が急所になるではないか・・・。

 こう考えて気づいたのが、「広辞苑」の説明に《通じやすくなる》効果があることを考えた語り方だった。4棟600戸の世界で格別の反対もないが、それほどの賛成も確かめにくい状態で、少しでも望ましい決め方を実現するために、これは絶好のポイントになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 この実感に気づいた経験は、その後になって各地の管理組合の人が集まった機会にマンション管理のことを語る時に、いつも欠かせない手がかりになった。

 セミナーや講座に集まる管理組合の人は、必ずしも本や新聞をよく読んでいるとは限らない。法律の長ったらしく持って回った難しい言葉がそのまま説明抜きで通用すると期待できないものだ。世の中には「わかっている人」よりも「わかっていない人」の方がはるかに多いのだから。
                   ☆
 自分のマンションの住みよさを支える管理組合では、いつも「わからせるために語る工夫」が欠かせない急所になる。ここに気づかないと、区分所有法も標準管理規約も言葉の羅列だけの《絵に描いた餅》になってしまう。

 でも、そんなことは誰も言わない。国交省も、マンション管理センターも、マンション学会も、マスコミも・・・。

 だが、そこに気がついた以上やはり言わなくてはなるまい。
                   ☆
 求められるままにせっせと各地へ足を運ぶ機会が多くなり、管理組合の人が集まればどこへでも出かけた。いつもこの気持ちを抱えて。

 「広辞苑」の改訂第3版が出ていた頃だった。

| muraitadao | コラム | 09:03 | comments(0) | trackbacks(0) |









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