村井忠夫のマンション管理ブログ

村井忠夫のマンション管理ブログ
【44年の実感で「マンションの管理」を考える30】「このセミナーは参加者の顔がみんな暗いですね」と記者に質問された30年前の夏の日を思い出す

最初の大規模修繕工事が今にして思えばマンション管理との関わりの始まりだった

 初めて自分のマンションで大規模修繕工事に取り組んだのは、元号が昭和から平成に変わったころだった。もう30年前になる。マンション管理センターはまだ生まれていなかった。

 だから、今でこそ珍しくない大規模修繕工事についての情報が雑誌に出ているわけでもないし、参考書やセミナーなどもまったくない時代だった。

 今と違って書店全盛の時代だったが、それでもマンション管理の本や雑誌は全くなかった。品揃えの多い大型書店でマンション関連の本を探す時には、だいたい「趣味」のコーナーに近いところを探すのがコツだった。「金魚の飼い方入門」と並んでマンションの本が見つかったこともある。

 ついでながら、私自身は、マンション管理に関わるようになる前は「住宅評論家」というクレジットで書いたり話したりする機会が多くなっていた。住宅ローン関連の本などはもう何冊も書いたりしたが、マンションの本となると、どの出版社も書店も《まだまだ、とても、とても・・》という状況だった。

 そんな時期に、私は住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)から当時の大正海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)に移った。公庫では、30年以上にわたって天下られてきたのに、今度はわが身自身が天下らされることになった。複雑な気分だったと言わねばならない。

 そんな経緯があったから、大正海上火災に移った時、何かそれなりの意味を見つけたかった。そこで浮かび上がったものの一つが、マンション管理だった。

 まず、マンション管理セミナーを開いた。具体化の段取りを一切合切こしらえた上での提案を会社が取り上げてくれた。よくぞ関心を向けてくれたと、今も感謝している。

 それはそれとして、まだこういうセミナーは少なかったから、都市部でも地方でもかなり参加者が多かった。普段あまり本やセミナーとか講演会に縁がないような人でも目に留まって気になるような現実的なタイトルで、プログラムを考えたのが的中したと思う。説明的で長ったらしいタイトルが多かったのも、それなりに工夫した結果だった。

 そんな内容のセミナーの開催告知の記事を住宅ローン関連原稿で付き合いのあった新聞に出してもらったこともあった。今と違って、この時代は新聞購読者が多かったから、効果は絶大だった。

 実を言うと、プログラムづくりの段階では、具体的なテーマを自分の言葉で語れる講師を選ぶのが大変だった。本で知った観念的な理屈ばかり並べるような人では、リアルな苦労を重ねてきた人たちを前にした説得力を期待できるわけがないと思ったからだ。

 しかし、それを気にしていると、「これぞ」という人がなかなか見つからなくなる。時間も予算も限られた中で実現を急ぎたい事情に困り果てて、結局、自分自身が講師として演壇に立つことが多くなっていった。でも、自分が講師になれば、自分の言葉で、自分の考えていることを語ることができる。

 骨は折れたが、充実感は確かにあった。

 こうして、自分が住むマンションで未経験の不安に耐えながら取り組んだ大規模修繕工事の経験が支えになって、マンション管理との長い関わりが始まった。

セミナーの会場に来た取材記者が言った「ホールの人がみんな暗い顔をしてますね」

 そうした経過でセミナーの情報を流してくれた新聞の中に、セミナーの開催そのものに興味を持ってくれた全国紙があった。マンション管理セミナーがまだ少なかったから、開催自体にニュースバリューがあったのかもしれない。8月のある土曜日、全国紙の記者がホールを訪ねてきた。東京の会場で300人ぐらいの参加者があったと思う。

 この日、私自身が1時間ほどの話をすませて控室に戻ると、取材に来た記者が待っていた。その記者は、セミナー開催の意図や開催までの経過、マンションの現状などをいろいろ聞いた後でこう言った。

 《ずいぶん参加者が来ていますが、会場の様子をみるとみんな一様に深刻な暗い顔をしている気がします。いったい、なぜなんですか?》

 正直、ちょっと驚いた。まさか、こんな質問をされるとは思っていなかったからだ。

 で、率直にこう答えた。

 《当たり前じゃないですか。自分のマンションで困った問題にぶつかって、どこに聞いたらいいかわからない人ばかりが、このホールに足を運んできたんですからね。》

 この取材結果が紙面に出たのかどうか、覚えていない。だが、このやり取りの記憶は30年が過ぎた今も鮮明である。

セミナーの終わった後ホールの入口で待っていた人の話を聞くと・・・

 でも、このときに限らずどのセミナーでも終わった後が大変だった。

 参加者がいなくなって静かになった会場の入口で待っている人にいろいろ聞かれることが何度もあったからだ。

 そういう形で会った人は、いつも初対面だから無理もないとは言うものの、訥々とした話の中身を聞くのが大変だった。何を聞きたいのかを確かめていくと、結局のところ「さきほどの話は、ウチのマンションの場合どう考えたらいいのかわからないので、そこを教えてください」ということになるのが、どこのセミナーでも共通していた。
                   ☆
 こうした経験を重ねるたびにはっきりしてくる実感があった。それは、マンションの管理でぶつかった問題は、結局のところ自分の住むマンションに固有の条件を当てはめて答探しをするしか方法がないという点だ。

 だが、こうは言っても、実際問題となるとなかなか難しい。結局、最後は自分たち自身で結論を出すしかないのだが、決めるときの判断の手がかりになる情報の使い方にはいささかの急所があることだけは知っておく方がいい。今日は、お住まいのマンション向けの急所だけ話しておきますから、その後のことはまた機会を改めて聞いてください・・・。

 大体そんなことを話していくと、ほとんどの人はいくらか落ち着きを取り戻して帰っていった。

 そこから後は、いろいろだった。半分ぐらいの人はそこでおしまいになったが、さらに質問が続くこともあったし、次のセミナーにまたやってくる人もあった。手紙で20本以上の質問を送ってきた人もいた。
                   ☆
 それからは、人の数だけ直面する問題が違うという実感を重ねる日々だった。自分自身が住むマンションで大規模修繕工事をすませて間もない時期だったから、こういう場合の「困り方」を聞くと放っておけぬまま何か語りかけずにはいられなかったというのが正直な実感だった。

 そのときから現在まで、マンション管理について関わりたいという気持ちを支え続けてきたのはこの実感があったからだ。住宅金融公庫の時代に取り組んできた「相談」という方法の意味の重さにまた気がついたのも、この実感がきっかけだった。

| muraitadao | コラム | 16:03 | comments(0) | trackbacks(0) |









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