村井忠夫のマンション管理ブログ

村井忠夫のマンション管理ブログ
【44年の実感で「マンションの管理」を考える 31】「相談」という言葉に隠れた情報発信の重い意味に気づいている人はどのくらいいるだろうか

仕事としての「相談」の意味を《道を聞かれて答える》レベルの軽いものと勘違いしてはならない!

 住宅の世界に関わるようになったのは63年前の8月。発足して5年目の住宅金融公庫に入った時からである。戦後10年が過ぎたばかりで430万戸の住宅不足がまだ切実な時代だった。そんな頃から800万戸を超える空き家続出時代まで半世紀以上の歳月の流れを、いろいろな角度からずっと目の当たりに確かめ続けてきたことになる。

 思い出すこと語りたいことは山ほどあるが、やめておく。

 しかし、一つだけ書いておきたい。それは、仕事で何度も「相談」をする部門に携わった時の実感経験だ。

 「相談」は、いろいろなことをかかえた人に面と向き合う仕事である。そういう仕事に何度も関わってくると、いろいろな人の口から様々な話を聞いてきたという確かな実感を記憶することになる。

 当然ながら、相談窓口にやってくる人は誰もが「聞いてほしいこと」をいっぱい抱えている。どうしても聞いてもらわなければ困るからこそ相談窓口に足を運んでくるのは、治したい病気があるから病院に行くのとまったく変わらない。

 その意味で、相談に来る人たちから聞く話は、間違いなく本や新聞・雑誌では決してわからない現実感にあふれるようなことばかりだった。

 どんな分野であれ、相談は、一対一の対話という形で展開する。どっちでもいいような話なら、わざわざ相談したくて足を運んでくるはずがない。切羽詰まって聞いてほしいことがあるからこその対話が相談なのだ。

 だが、大抵は聞く方も聞かれる方も初対面だ。目の前にいるのはどんな人なのか、会ったばかりで名前すらわからない状態でも、相談に乗る方は、目の前の相手がまず《いま、ぶつかっている問題は、いったい何なのか》を口に出して余すところなく語り終えるまでじっと聞いていなければならない。決して、口を挟まずに・・。

 対話の流れが《どうしたらいいか》という方向に向かうのは、すべてその後なのだから。

 聞かれたことによっては答えが見つからない場合も珍しくない。そんな時には、いっしょに答探しをする覚悟がこちらにも必要となる。

 相談でやり取りする言葉が、そのまま質問者の判断の手がかりとなり、その判断の結果はもしかすると長い年月に影を落とすかもしれないが、相談を求められている自分が答えられそうもない・・と気がついても決して逃げてはならない。

 ここからは、一緒に答探しに付き合うという感覚が必要になる。
                   ☆
 住まいの問題の相談は《つくりごとのお話》ではない。儲けて利益を得るための資産として住宅を手に入れようとする人なら、もともと相談などしてこない。損得に目ざとい人は、口に出さず黙ったまま自分で答えを見つける心得があるのだから。

 そこに気づいたのも、相談の実感だった。
                   ☆
 だが、答えが見つからないままの相談であっても、そうした相談が何も役に立たなかったということには決してならない。今でも、そう思う。

 てきぱきしたやり取りとは程遠いボソボソした対話であっても、相談に来た人は、何とかして自分の言葉で少しずつ質問し続けているうちに、当の質問者自身が何となく自分でも気づかぬうちに、頭の中でもやもやとぼんやりしていた考え方がだんだん整理されてくる感じになるからだ。

 その実感がわいてくる程度の時間が経過すると、ほかならぬ相談に答える方も相手に通じる言葉や言い方をつかめてくる。この人にはこんな言い方が向きそうだとか、こう話せばいいのではないか、という感じで。

 そんな過程をたどるうちに、答えが見つかりそうな方向に近づくことはとても多い。
                   ☆
 まず、口に出して《話してみる》ということがどれほど有効か・・。その実感の積み重ねが、少しずつ相談者の力量や努力に支えられる対話の意味を固めていくことがわかったころ、33年間の住宅金融公庫の定年を迎えた。

「相談には人の数だけ答がある」こと、「その答は人に通じる言葉で語られてこそ意味がある」という確信がその後の人生を支えてきてくれた・・

 定年を迎えたとき、この思いはほとんど確信的に固まっていた。

 住宅の問題は、どんな意味であれ、きわめて現実的な問題である。だから、何とかして答えを見つけなければならない問題だ。

 住宅を語るときに言葉と理屈が必要になるのは、そうした意味で答えを確かめる必要があるからだ。当然ながら、その言葉や理屈は誰にでも通じるものでなければならない。

 これは、住宅に関するすべてのことに言えるし。個人であろうと業界人であろうと、役人であろうと学者であろうと、ジャーナリストであろうと全く変わらない。

 住宅について考え、語り、書くことは、どんな意味ででも独りよがりになってはならないのだ。

 自分が発信者になる情報の言葉や理屈は、すべて受け入れられるかどうかで意味が問われる。
                   ☆
 こうしたことを確信的に考え始めたことが「住宅評論家」というクレジットを使うようになったきっかけだった。

| muraitadao | コラム | 12:02 | comments(0) | trackbacks(0) |









http://murai.realestate-jp.com/trackback/991876
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< November 2018 >>
+ SELECTED ENTRIES
+ RECENT COMMENTS
  • 【番外】11年目。公開遺言のつもりでブログを書き続けます
    マンション・チラシの定点観測 (11/26)
  • 文庫本より重くて330ページもある箱入りの「東京防災」という本が届いたが、さて・・・
    村井忠夫 (12/07)
  • 文庫本より重くて330ページもある箱入りの「東京防災」という本が届いたが、さて・・・
    尾下 義男 (12/07)
  • 文庫本より重くて330ページもある箱入りの「東京防災」という本が届いたが、さて・・・
    村井忠夫 (11/23)
  • 文庫本より重くて330ページもある箱入りの「東京防災」という本が届いたが、さて・・・
    尾下義男 (11/23)
  • 2年半ぶりでメンバーも変わって再開のマンション管理検討会、たった1か月で結論を出すとは・・・・
    とおりすがり (04/24)
  • 最新の「マンション総合調査」から読めること、読めないこと
    村井忠夫 (09/06)
  • 最新の「マンション総合調査」から読めること、読めないこと
    まるーべり (09/06)
  • 都議ヤジ問題の本当の理由は議員の当事者感覚の貧しさ
    村井忠夫 (06/26)
  • 都議ヤジ問題の本当の理由は議員の当事者感覚の貧しさ
    ポリス (06/26)
+ RECENT TRACKBACK
  • 「沈黙は賛成じゃない」という論理。選挙や総会では?
    マンション管理の情報屋。。。 (09/22)
  • マンションの中の喫茶店が話題になる・・・・:マンションの共用空間の新しい意味をもっと考えていいのではないか
    神園良輔の『マンション展望』 (05/05)
  • マンガ説明入りの規約解説本があってもいいじゃない?でも実際には簡単にいかないけどね
    マンション管理士情報ナビ (05/27)
  • マンガ説明入りの規約解説本があってもいいじゃない?でも実際には簡単にいかないけどね
    マンション管理士情報ナビ (05/27)
  • 女児マンション転落事故のニュースが浮かび上がらせたこと:どこのマンションでも同じことが起こる可能性にどれだけの人が気づいているか
    MANSIONS-COMMUNITY blog (04/15)
  • 「億ション」は最高が1億円なのか、最低が1億円なのか、それとも・・・:管理の基本原則は何億円でも関係ないが
    マンション展望 (02/16)
  • 「美しい国」で、これ以上「美しくないこと」が起こらないように:もっと集合住宅に住む不安を減らすための議論を
    マンション展望 (12/01)
  • 8年前の2月、国会でマンション管理をめぐる史上初の議論が行われた。そして、昨日の朝刊には・・・
    NONブログ (11/27)
  • 書名は買い手にとって本のすべて。本の名前と内容はなるべくなら、あまり違わない方がいいと思うのだが・・・
    高層マンション (08/27)
  • 新しい住宅が建たなくなったというニュースの怖い連想:暗い窓ばかりのマンションが思い浮かぶ・・
    マンション展望 (08/25)
+ CATEGORIES
+ ARCHIVES
+ LINKS
+ PROFILE