村井忠夫のマンション管理ブログ

村井忠夫のマンション管理ブログ
【マンションに住む実感を確かめるノート】「マンションに住んでいる実感」を語れる自分の言葉がありますか〜マンションを「よそ」の誰かにわかってもらえる言葉や話し方って案外むずかしい・・〜

突然の転勤命令で住まいは自分で何とかしろと言われただけ・・・。でもその時の屈折した心境がその後の言語感覚の方向を決めた

 4棟600戸あまり。居住人口は今も1000人を超える。空き家はめったに出ない。

 「郊外電車」とか「デベロッパー」という言葉が辛うじてまだ生き残っていた時期に、首都圏進出を目指していたローカル某社による物件。

 何といっても、立地がよかった。

 都心まで私鉄の急行なら約20分、昔から住宅地として名高い駅にも近いといえば聞こえがいいが、もとは大雨が降るたびにすぐ水があふれる厄介で使いにくいところだったらしい。

 昔の東京府○○多摩郡だった某市。

 最寄りの駅から次の駅で急行か特急に乗り換えると、都心までは遠くはない。

 田中角栄はまだ健在。“列島改造論”だの“メガロポリス”だのと訳知り顔に政治ジャーナリストが熱っぽく語っていたころの感覚では、そこそこの距離感だった。
                   ☆
 この頃、住宅金融公庫の大阪支店で日照権トラブル対応に明け暮れていた。

 地図では読めない地形の高低差や距離感、街並みの匂いや騒音などの現地感覚も見聞を重ねて対応の呼吸にやっと馴染んだ頃、また東京転勤になった。

 利用者への対応部門強化のために新設する本店の相談部門を統括するようにというオーダーだった。

 でも、言われたのは、それだけ。

 住むところは自分で何とかしろ、適当に探せ、と言われただけでおしまい。
                   ☆
 だが、適当に探せなどと言われても、すぐどうにかできるはずもない。

 個人レベルの情報だけが頼りの綱だった。

 これというほどの話もないまま日が過ぎて気になっていたころ、ある大規模マンションの一戸が急にキャンセルされたが、どうするかという話が舞い込んだ。

 その大規模マンションは数棟の大半が住宅金融公庫融資付で住む人が決まっていたが、公庫融資付ではない棟の1戸が急にキャンセルされたのだった。
                   ☆
 この話は渡りに船だったが、キャンセルは何しろ価格が高くて・・ということだったらしい。

 当然、価格相応の資金づくりには骨が折れた。

 骨は折れたが、この時に経験できたことは想像以上にたくさんあった。誰にでも通用するような公式ではなくて見方を変えればこういう考え方ができるとか、着手時期を分散すると展望が想像以上に開けるとがいうことが、実感として理解できた。

 どれもこれも、それまで聞いたこともない話ばかりだった。

 要するに、総論では分からない話も、条件設定によって考え方を整理すれば、目前の光景の将来が見えてくるという実感だった。

 その後、住宅評論家のクレジットで書いたり話したりするようになったが、そうした時に書くことも話すこともほとんど、このときの実体験で出来上がった気がする。この当時の経験によって書き言葉も話し言葉も、基本的な感覚が決まったといえる。

 例えば、まだ経験で実感していない人が「○○だろう」とか「○○かもしれない」という程度の表現でぼかしてすませることを、はっきり「○○である」とか「○○だ」と断定するようになったのは、この頃からだった。

 今こうしてマンションの実情についてリアルな語り口ができるのも、この頃の経験によるものだったとつくづく思う。

語るにせよ書くにせよ目前に相手がいればこそ。こちらの「伝えたいこと」が相手に伝わらなかったら一人合点になる。それでは・・・

 この実感は、貴重だった。

 住宅融資が景気対策として注目されることが多くなり、今まで考えたこともなかった状況への対応に迫られることが目に見えて多くなってきていた。

 住宅を何とかしたいのに資金が足りない、どうしたらいいだろうか・・という途方に暮れた声が、日ごとに強くなってくる中で、こうした状況は法律談義に明け暮れてきた官僚感覚の人には、もう手に負えるはずもない。

 本店に相談対応部門が生まれた事情の背景には、そういう時代の空気があった。
                   ☆
 そんなある日、突然、住宅ローンの解説本を出したいが・・・という話が舞いこんできた。どういう経緯だったのか、もう忘れてしまったが、この頃、オフタイムには公庫の外にいる人と付き合うことが多くなっていたからだったのは確かである。
                   ☆
 いつも誰かが身近にいる・・・。

 この実感は住宅のことを「話す」とか「書く」にせよ、すべてそういう相手あってのことだという気分が確信的に染み込む結果になった。

 誰かが、いつも身近にいる・・・。

 そうなれば、「話す」ことも「書く」こともまず目の前の相手の存在を考えるのが先決。話すのも書くのも、ここがはっきりしてからのこと・・・。

 相手あってこそ・・・というなら、身近にいつも誰かがいることを常に考えることになる。

 それも、生活インフラを共有できる身近な人にわかってもらえる人たちが。すぐ近くに・・・。

 壁や床を隔てただけの至近距離に住むマンション暮らしの日々は、この点で実に大きなことを教えてくれた。
                   ☆
 物事は、いつも、もっと奥にあるもう一つの「何か」に通じている。

 マンションは、人の住まいがいったい何なのかを考えることに・・・。

 人の住まいは、どんな人の暮らしの光景が展開するところなのかを思い浮かべることに。

 人の暮らしは、年月が過ぎると、どう変わっていくのかをいつも想像することに。

 そうしたことがあっても大丈夫だといえるようになりたければ、いま見えている光景に、どういう条件を当てはめたらいいかと発想することに。

 ・・・・・・・・・・・・
                   ☆
 どれも。すべてマンションが身近に誰かといっしょに住む世界だという意味に収斂する。

 こんな形のマンションの居住実感を確かめる45年間が、こうして始まった。

| muraitadao | コラム | 11:40 | comments(0) | trackbacks(0) |









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